意志で無理なら、科学でやせる!
彼女からの言葉でダイエットを決意し、専門家への取材で得た知見をもとに自ら実践して40kgの減量に成功した医療記者の記録。
急な運動や食事制限とリバウンドを繰り返し、自分はダメだと思ってしまう。何度も挫折しそうになりながらわかってきたのは「自分を変えようとしても、しんどい」ということ。ダイエット成功のカギは、生活を見直し環境を徐々に変えていくことだった。
『医療記者のダイエット』から実際に成功した10のステップを公開します。
◆ ◆ ◆
彼女が出ていった
「わたし、デブはタイプじゃないって、ずっと言ってるよね」
体重計の数値が110キロ前後を行ったり来たりしていた初夏のある日、当時のパートナーがまっすぐに僕を見やり、こう言いました。めくれ上がったTシャツから突き出た腹を隠そうともせず、クーラーを効かせた部屋のソファでダラダラしている僕に、彼女がいつになく真剣な表情で詰め寄ったのです。
付き合うことになったとき、彼女が提示した条件は、たしかに「やせる」こと。それから1年半、「やせて」と言われる度にごまかし続け、やせるどころかさらに太り続けた僕に、ついにガマンの限界を迎えたのでしょう。
一方の僕はいつものように「わかってるって」「がんばるから」と返事をしました。しかし、事態は深刻。「もうずっとそれ」「ぜんぜん信用できない」そう言い残して、彼女は一緒に住んでいた部屋を出ていってしまったのです。
これはいよいよまずいことになったぞ─部屋に積み上げられていく段ボールと、それが日に日に運び出されていく現実を目の当たりにし、ようやくそう悟った僕は、そこから〝ダイエット〟を始めました。
食事は豆腐と果物だけ。仕事中に頭が働かなくなったらブドウ糖のタブレットを噛み砕く。ファスティング(プチ断食)と称して、野菜ジュースと通販で入手した酵素ドリンクなるものだけを口にする日もありました。
運動もしました。仕事が終わり、0時を回ってから深夜のジョギング。人気のない東京湾岸の倉庫街まで走り、ボーッと海を眺めていたおぼろげな記憶があります。というのも、あまりに無茶な生活をした結果、当時のことをよく覚えていないのです。
そんな毎日は1カ月ほど続き、体重はみるみる10キロ以上落ちました。体重が90キロ台になり、ダイエットに成功したと思い込んでいた僕は、出ていった彼女と話し合いの場を持つことに。「自分はやればできる」と意気揚々とその場に臨んだ僕に、彼女ははっきりとこう言いました。
「デブがとかじゃなくて、あなたのことがもう好きじゃない」
1年半も約束を守らなかったわけなので、完全なる自業自得です。「(ダイエット)できるんだったら、もっと早くちゃんとやせてほしかった」と言う彼女に、返す言葉もありません。
とはいえ、さすがにこれはショックでした。報われなかった努力がバカバカしくなり、好きなものを好きなだけ食べ、家でゴロゴロする生活に逆戻り……。1カ月後には体重が元に戻り、さらに1カ月後にはむしろ5キロも増えていました。過去最「重」記録の更新、体重は115キロ。体脂肪率は34%で、つまり、体の3分の1が脂肪の状態です。
今であれば、無茶な〝ダイエット〟により絵に描いたようなリバウンドをしてしまったことがわかります。空腹の時間が長く、栄養バランスも偏っている。運動にしても急激にハードなことをしたため、継続できず、ケガをしやすい。このような〝ダイエット〟では、一時的に体重は減るものの、筋肉まで減ってしまい、より太りやすい体になってしまうでしょう。当然ですが、この〝ダイエット〟は大失敗なので、絶対にマネをしないでください。
その後、僕は失意のうちにダイエットのことを頭の外に追い出し、生活していました。
しかし、です。ありがたいことにその半年後、新しいパートナーができる運びとなりました。それではいよいよ正式に付き合いましょうか、というタイミングで、その彼女はキッと僕を見やり、こう言ったのです。
「でもわたし、デブはタイプじゃないからね」
こんなことってある!? 人生でまたこのセリフを聞くことになろうとは……。さすがにこれ以上、同じことを繰り返すわけにはいきません。こうして僕は「今度こそやせよう」と固く心に誓ったのでした。
「わかっている」あなたに
「やせて」と言われて「わかってるって」「がんばるから」という返事をしたことのあるすべての人のために、僕はこの本を書いています。なぜなら、この言葉が決してウソでないことを、他ならぬ僕自身がよく知っているからです。
やせなければいけないことがわかっていても、やせるためにがんばろうとしていても、それでもやせない。このことは、実は科学的に説明ができます。
「人はなぜ太るのか」「人はどうすればやせるのか」――これらはダイエットというテーマに向き合う上で最大のテーマです。それぞれについての個別の情報、あるいはこれらを広く網羅した情報は、世の中にすでにたくさん溢れています。
しかし、ダイエットに悩む人は一向に減っているようには思えません。
ひとつの理由は、このような情報の中には誤りも含まれているから。もうひとつの理由は、たとえ正しい情報でも実践するのが難しいから。誤った情報を基にダイエットに取り組んでも効果は出ないばかりか、逆効果になることもあります。また、正しい情報でも実践できなければ意味がありませんし、「自分にはダイエットは無理なんだ」と諦めてしまう人がいるかもしれません。
でも、心配しなくて大丈夫です。
僕は、誤りを含む情報に基づいてダイエットをしてリバウンドをし、正しい情報に基づいたダイエットはいつも挫折していました。それが今、やせることができた。なぜかというと、正しい情報を知り、それに基づいたダイエットを続けるための工夫をしたからです。
僕は2014年3月に地方国立大学の医学部医学科を卒業し、2017年からネットの報道機関で、2019年からは新聞社で医療記者、つまり医療や健康をテーマにした取材をして、記事を書く仕事をしています。まさに、正しい情報を取り扱うのが仕事です。情報だけでは解決できない問題は、専門家と一緒に、どんな工夫ができるか考えます。医療記者になった当初から、ダイエットをテーマにした取材を続け、自分でも実践してきました。このノウハウは、きっと多くの人が、ダイエットを成功させるために役に立つと信じています。
医療記者になる前、僕はダイエットの関連本やネットの記事を読み漁り、目についた方法に飛びついていました。にもかかわらず、僕はやせませんでした。このような行動を僕がとってしまったのは、医学の勉強をしており「ダイエットをしたいなら食事と運動の根本的な改善しかない」という事実を知りながら、目を背けたためでもあります。
僕の大失敗〝ダイエット〟ほど極端ではなくとも、たとえばランチを抜いたり、脂肪燃焼サプリメントを飲んだり……といった経験がある人もいるのではないでしょうか。肥満の解消に食事と運動が重要であることはもはや常識ですが、それを知りながら多くの人が取り組んでいるダイエットの方法は、意外と誤っていることが多いのです。
あれから3年。多少の上下はありましたが、僕は現在体重75キロ±3キロをキープし、合計約40キロの減量に成功しています。
ここ数年の取り組みから、ダイエットには正しい情報とそれを実践する工夫に加え、もうひとつ大事なポイントがあることがわかりました。これは同時に、この本が他の本と異なる点、そして多くのダイエットが失敗してしまう理由にもつながります。
それは、成功するダイエットに必要なのは、意志の強弱によらずやせていくような環境を作ることだ、ということです。
ダイエットの成否を「意志の問題」と決めつけてしまうのは、本当はとても危険なことです。もちろん、それにより鼓舞される人もいるでしょう。一方で、これは「やせるための環境が整っている人」「やせにくい現在の環境を変える余裕のある人」にのみ有効な言説です。
やせるための環境が整っていない人、その環境を変える余裕のない人に、意志の問題を突きつけても、逆効果です。近年、医学研究では「健康になるためには環境を変えるべきである」というのが常識になりつつあります。自分の意志だけでは、環境には抗えず、したがってダイエットも成功しにくいのです。
重要なのは、少しずつでも、自分を取り巻く環境を変えていくアプローチ。この本では、過去にブラック企業に勤務し、ストレス過多や長時間労働、睡眠不足、暴飲暴食で40キロも太ってしまった僕が、いかにしてその環境を変えていったか、についても紹介します。
ダイエットが意志の問題であると誤解されやすいのは、肥満解消に本人のセルフマネジメントが求められるからです。そして、これは容易なことではありません。なぜなら、肥満の状態にある人(肥満者)には、特有の「クセ」があるからです。このクセは肥満者から合理的な思考を奪い、より太らせるように働いてしまいます。
ダイエットという行為を、一歩引いて眺めてみましょう。「食事をガマンする」「がんばって運動する」……どちらも「ガマン」「がんばって」といった言葉が出てくることからもわかるように、精神的なコストの高い行為です。
一方、肥満者にとって「好きなものをたくさん食べる(飲む)」「運動せずにゴロゴロする」といった行為は逆に、精神的なコストが低いことがわかるでしょう。同時に、目先の満足感を得られてしまう。簡単に言えば、ダイエットをするより、ダイエットをしない方が、「今この瞬間はラクで快適」なのです。
逆に「このままだと将来は病気になる」と脅かしたところで、今がよければそれでいいモードの人の行動のきっかけにはなりにくい。ダイエットにはこうした構造的な課題があります。
肥満の「黒幕」
肥満には、黒幕がいます。
ダイエットを阻む敵は、わかりやすいところでは、帰り道にあるおいしそうな飲食店だったり、夏で暑い、冬で寒いから外で運動したくない、みたいなことでもあるわけですが─黒幕はわかりにくいところに潜んでいるのです。
ひとり目の黒幕は、自分の意志の及びにくい、肥満者に共通するクセ。このクセが生まれる背景には、脳のホルモンバランスの異常があるとする研究もあります。こうなると、もはや自分の意志「だけ」では変われません。
太っていると、自分をダメなヤツだと思い込んでしまいがちです。将来の健康、周囲の心配など、大事なものを犠牲にしても、変われない。そんな自分に絶望してしまうこともあるでしょう。しかし、ダメなのは自分ではなく、そのクセ。それを理解することから、本当の意味でのダイエットが始まります。
なお、このクセは不可逆的、つまり絶対に元に戻らない変化ではありません。僕の例しかり、肥満を解消することは十分に可能です。
ふたり目の黒幕は、環境です。実は、人はそれぞれの置かれた状況によって「健康になりやすさ」あるいは「不健康になりやすさ」が異なる、ということが、医学的な研究によって明らかになっています。
健康は本人の年齢や体質、行動の影響を受けます。このうち特に「行動」の選択は、本人の周囲の環境に強く左右されることが知られています。そして、肥満はたとえば、食べすぎや飲みすぎ、運動をしないなど、まさにこの行動の積み重ねによって生じるものなのです。
であれば、行動に影響する環境を変えないと、肥満という問題の根本的な解決にはならないことがわかるでしょう。一方で、この環境を変えることは、社会に生きる人間にとって実に難しいことでもあります。ですが、これを変えないことには、何度もリバウンドを繰り返してしまうことになるのです。
さて、ここでこの本で僕がすること、読者のみなさんの身につくことを、あらためて整理させてください。
1つ目、ダイエットの原理原則を紹介します。
2つ目、現時点でもっとも正しいダイエットの情報を紹介します。
3つ目、意志だけでなく環境を変える方法を紹介します。
この本では、体重115キロ、体脂肪率34%、BMI37.6の重度肥満だった僕が、合計40キロのダイエットに成功するまでを、日記形式で振り返っていきます。合間には医療記者として知り得た、現時点でもっとも正しい情報を交えながら、です。
本編に入る前に、僕の合計40キロダイエット成功までのロードマップを、段階順に列挙しておきましょう。
① 「自分にダイエットが必要か」「なぜダイエットするのか」を確認する。
② 肥満であることのリスクを把握する。
③ ダイエットの原理原則、現時点でもっとも正しい情報を理解する。
④ ③に沿った伴走者(管理栄養士・トレーナー)を見つける。
⑤ ③を実践する。
⑥ アクティビティ・トラッカーを購入、ダイエット管理アプリをダウンロード。
⑦ ④を卒業後は食事とトレーニングの内容を⑥で記録、進捗状況を把握する。
⑧ SNSでダイエット開始を宣言し、結果を随時シェアする。
⑨ メッセンジャーアプリでダイエットグループを立ち上げ、励まし合う。
⑩ 自転車通勤、休日のハイキングや登山など、生活に運動を取り入れる。
僕はもともと、とても怠惰な人間です。根本的な生活の改善から逃避し、すぐできそうなものに手を出しては、時間とお金をムダにする……。今回のダイエット成功までには、そんな数え切れないくらいの失敗を繰り返しています。
だからこそ、気づきました。そんな自分を変えようとしても、しんどい。しんどいことは続けられない。変えるべきは、怠惰な自分をちょっとずつ騙して、気づいたらやせているようにする生活です。
食事や運動といった生活習慣を、自分だけの力で変えるのが無理なら、パーソナルジムに入会する。ずっと続けるのは時間的にも金銭的にも難しいので、安価なアクティビティ・トラッカーや無料のダイエット管理アプリを導入し、その機能を代替する。インスタグラムでダイエットを宣言して後に退けなくする。モチベーションが次第に下がってくるので、LINEで友人を巻き込む。ここまで来ると動きやすい体になっているので、休日のアクティビティを運動にしてしまう。
このようにして、もともと意志の弱い僕も、やせることができたのでした。
各段階は、実はそれぞれに、科学的な根拠(「エビデンス」と言います)があるものです。したがって、この本を読み、みなさんも自身の生活を少しずつ変えていけば、気づくと結果が出た状態になるはずです。
僕のダイエットの日々と一緒に、あなたも自分のダイエットを成功させてみませんか。
(続きは本書でお楽しみください)
▼朽木誠一郎『医療記者のダイエット』詳細はこちら
https://www.kadokawa.co.jp/product/321907000702/
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June 15, 2020 at 10:01AM
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